野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

禅文化としての野口整体 活元運動 第二章 二4 鉄人の心の問題がスポーツでは解決しない理由②

② 近代スポーツの身体訓練が高める能力とは

 湯浅泰雄氏は西洋のスポーツが発達させる身体能力と身体の情報回路について次のように述べています(『気とは何か』NHK出版)。

身体の三つの回路

身体の諸器官の能力の中で最も自由になるのは運動器官の能力である。一定の技(わざ)(身体運動)は、何度もくり返しくり返し訓練を重ねることによって身についた高度のものになるが、このことは、右にのべた第二の全身内部感覚回路の習慣づけによって、第一の感覚―運動回路の能力が高められるということを示している。ただし西洋のスポーツが目標にしているのはここまでである。

 ここで述べられている第一の「(外界)感覚―運動回路」とは、「身体と外界の関係に関する情報システム」という、外界にかかわる行動のために習慣化された神経回路です。

 身体と外界との間には、環境からくる刺戟を受けとる感覚器官と、外へ働きかける運動器官とによって、一種の情報の回路がつくられており、感覚器官を通じて受けとる外界からの刺戟(光・音・味覚・触覚など)は、脳というコンピューターへの入力情報(外界の状況に関するデータ)ということができます。

 大脳皮質は、そのデータを読みとって答えを出し、運動神経という回路を通じて運動器官に指令をくだし、環境に対して運動を開始します(ロボットはこのメカニズムの応用)。

 大脳皮質は、感覚神経から入ってくる外界からの刺戟に対して受動的に働くことで、どう行動すれば良いのかを判断し、運動神経を能動的に働かせることによって、外界の状況に対応して行動をとるのです。心理学的には、「外界に対する交渉の主体」としての自我のはたらきということができます。

 そして第二の「全身内部感覚回路」とは、運動器官である手足の筋肉や腱などにそなわっている運動感覚神経が、手足の状態を中枢である脳へ知らせる回路です(脳から指令を発する運動神経は遠心性回路となり、手足から情報を発する運動感覚神経が求心性回路となる)。

 スポーツや芸の演技の得意な人は、この、第二の回路の能力がよく発達していて、手足の状態に関する情報が運動感覚神経を通じて敏速に脳の中枢まで伝わり、中枢からただちにその状態に対応する指令が、運動神経を通じて末端の手足にまで送り返されることによってよい演技ができます。この回路は、身体の運動感覚(キネステーシス)に関する回路で、第一の(外界)感覚―運動回路を支えている体内の情報メカニズムです。

 近代的な身体能力の訓練とは、感覚―運動回路の潜在能力を高めていくこと、つまり外からの刺戟に対してより敏速に反応できる能力とか、より多くのデータを処理する能力を身につけていくことであると言えるでしょう。

 このように、外界(記録や勝敗を含む)に反応する感覚と運動機能を中心に発達させることを目的にしているのが競技スポーツであり、随意筋と錐体路を中心としています。