野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

禅文化としての野口整体Ⅰ 活元運動 第二章 二6 心も弛める活元運動①

①無心・天心は「上虚下実」の身体から

5で表した「考えている」ことが、無意識的に行なわれている時は、本人がその内容に向き合い主体的に考えているのではないのです。こうした、頭を消極的に、かつ無意識的に使っている状態では、エネルギーの充電をすることはできません。

 頭に偏ることは、睡眠の質に影響し熟睡が阻まれるのです。それで、脳が活性化されず身心が刷新されなくなるのです(熟睡による自然治癒力の効能に勝るものはない)。

 筋肉の中には「筋紡錘」という受容器があり、これが神経と連絡しており、筋肉の収縮状態を脳に伝えるはたらきをしています。睡眠時に筋肉のどこかが緊張(収縮)していると、筋紡錘から伝わる筋肉の興奮が刺戟として絶えず脳に伝わるのです。

 ですから、筋肉が緊張し通しだったら頭もどこかで緊張しているので、深く眠ることができません。そのため、寝相で体を転々と動かして筋肉を弛め、深い眠りにつこうとするのです。

「元気な子どもは寝相が悪い」と、昔から言われてきた意味(わけ)をこのように説明することができます。このようなはたらき(疲労回復力)は、大人になるにつれ低下しがちのもので、ここに活元運動(錐体外路系運動の訓練)を行う理由があります。

 師野口晴哉は、熟睡のため身心を弛めることについて、次のように述べています(『風声明語』)。

丈夫な体をつくる方法

 まず体を弛める。体中をスッカリ弛める。心も弛める。

体には意識してやめようとしてもやまない不随意緊張部分がある。この筋緊張が筋紡錐から絶えず大脳へ信号を発するので大脳は休まらない。

…体を弛めねば休まらない。休まなければ自然の緊張は生じない。力一パイの集注もできない。体を弛めて寝なさい。

…風邪をひき、発熱し発汗するのも、又弛める為の自然の方法なのである。転々と寝相を変えるのも又その為なのである。全身的入浴や部分的入浴もその為に行なうのである。

 しかし弛める為に弛めるのではない。脱力し弛めるのは、全身心を一つにして緊張させ、力一パイ活動させる為なのである。しかも弛めるのは体だけではない。心も弛めなければならない。工夫や執着や憎しみや悩みを眠りの中に持ち込んではいけない。天心にかえって眠ることである。

 溌剌と生くる者に安らかな眠りがある。

 頭が抜けない=無心・天心(註)に片時もならないことで、人は不自然になるのです。日本の伝統的身体文化「型」=「腰・肚」文化とは、自然体を保つという意義があったのです(伝統的な「自然体」とは「上虚下実」を保つこと)。

(註)無心・天心 無心になってぽかんとすることを「天心」と言う。