野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

自分のことから始まる金井流潜在意識教育 2

体にくっついている心、体と一緒に動く心

 では、野口整体で言う「潜在意識」とはどういうものか?についてお話しします。

 野口整体で言う潜在意識とは「体に変化を起こすはたらきとなる心」のことです。心理学的には「意識できない心」と言うことが多いと思いますが、これは同じことを意味しています。

 野口整体の場合は、体の観察を通じて心のはたらきを捉えていくので、このような言い方をするのです。潜在意識は体全体のはたらきを、活気づけたり、停滞させたり、回復に向かわせたり、時には自己破壊のへ向かわせたりと、体全体を方向づけるのです。

 金井先生が潜在意識を捉える上での着手としたのは「情動」でした。情動というのは生理学的に捉えた感情のことで、感情的興奮がもたらす身体の変化・神経的興奮を一括りに「情動」と言います。

 現代の西洋医学には「心身医学」といって、心のはたらきを身体的な病気の原因として捉える医学があります。この臨床科を「心療内科」(今では整形外科など多様な科が心理的ストレスを病因として捉えるようになっている)と言ったりしますが、心身、心療という時の心は主に「情動」を意味しています(不快情動が持続し緊張状態が続いている状態を病因とする)。そこで金井先生は自身の個人指導を「心療整体」という言い方もしていました。

 心臓がどきどきする、血圧が上がる、汗が出る、筋肉が緊張する、皮膚が縮む、顔色が変わる…さまざまな感情によって、身体には多彩な変化が生じます。

 この情動は、表面的には一時的なものですが、感情的興奮が潜在意識化すると、体の歪み・偏りとなって心と体の感受性を歪め、発想(思考)までを方向づけてしまうのです。多く問題となるのは「不快」に属する感情で、自分では済んだことと思っていたり、忘れてしまったりしているものです。

野口先生はこのような働きを「漠たる感じ」と言い、次のように述べています。

 

漠たる感じというのは快感とか不快感の重なりなのです。しかし快感とか不快感というものは喉元をすぎないうちにすぐ忘れてしまうのに、それが人相にまで影響している。ちょっと不愉快なことが続くと人相が変わってくるし、逆に快感があっても人相が変わってくる。それは人相だけではなく動作まで変えてしまう。人相や動作まで変わってしまうのに自分には判らない。人間を動かす一番の大きな力は、この漠たる感情なのです。その動きを漠たる動きといい、この漠たる動きの中に快感、不快感の集積があって、それが潜在観念や潜在感情の方向を決定していくのです。だから、その漠たる動きを分解していくことが心理分析の重要な問題なのです。

・・・漠たる一点が快の方向に向かって希望を持って行動している限り、苦労も苦労ではないのです。(『月刊全生』)

 

 まず、手と眼による観察を通じて身心の変化を捉え、そこから感受した心の内容を問いかけ、対話を進めていく。こうして、その「漠たる感じ」を明瞭にし、腰が入る身体へと整え導くことで「漠たる一点が快の方向に向かう」ようにやりしていくのが野口整体金井流の個人指導でした。

 個人指導の終盤、先生の愉気と誘導で活元運動が闊達に始まると自分の中で止まっていた時間が流れ出し、身心が切り替わっていきます。そして、新しい自分で生活していける身心となって指導を終えました。個人指導を受けていた人すべてがそう思っていたかどうかは分かりませんが、私は、自身の生命・本心とのつながりを取り戻し、たましいへの通路を開いていく指導であったと思っています。