野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

(補)かくれたものを観る・身をたもつ 2

序― 野口整体金井流「心療整体」について

 「科学の知」は心身分離 「禅の智」は身心一如― 金井流整体指導の「心身医学」的解説

 現代の科学的教育によって発達した「理性」に偏った意識は、自我と身体に分裂をもたらしています。その理由(わけ)は、現代人は「感情を理性で抑制できる(感情は合理的に処理可能)」と思い込んでおり、日常的に(裡で)体験する「陰性感情」を鬱滞させることで、後にこの感情エネルギーに自我が支配されるからです。

 科学は理性を至上とし、感情を価値のないものとしたことで、自我から感情が排除されたのです。こうして発達したのが現代人の自我意識で、敗戦後の科学至上主義教育では、感情をどのように扱うか、育てるかが考えられていないからです。敗戦によって喪失した、日本の伝統的な「道」は、身体性を高めることで感情制御を身に付けるものであったのです。

 1で述べましたが、私たちの体と心(感情)は密接な関係にあり、喜びや楽しさ、あるいは不安や恐怖といった「喜怒哀楽」の感情は、身体的変化を起こす情動と呼ばれます。

 問題となるのは、意識下となった(=潜在意識化した)不快情動による交感神経の緊張持続です。

 明瞭に自覚できる不快情動としては、怒ると顔が真っ赤になったり、恐怖に襲われ不安になると心臓がドキドキし声が上ずったりすることです。これが、真に一過性であれば良いのですが、発生時に自覚はあったが潜在意識化した、または(発生時)、意識しにくい不快情動は、後に、頭痛・肩凝り・息苦しさ・眠りが浅くなる・食べ過ぎなどの身体的不調として表れます。

 整体指導で観察されるのは、このような(不快情動体験による身心の)硬張りで、指導の焦点となります(「偏り疲労(身体の歪み)」として観察される)。

 身体に硬張りが生じた時、自然治癒力である「恒常性維持機能(ホメオスタシス)」が活発にはたらくかどうかは、身体の弾力にかかっているのです。そして、それは身体感覚の敏・鈍そのものである、と言うことができます。身体感覚が鈍いことは情動に気づくことも鈍く、それで感情が滞り易く、身心が刷新されないのです。

 異常感に敏感であり、さらには、調和感に敏感であることが「整体を保つ」上で望ましい状態です。

 人は、主に人間関係によって、絶えず喜怒哀楽の感情が発生するものですが、不快情動が内向し積み重なると、その負のエネルギーによって自分自身(心と体)を内攻する(=内部を冒す)ことになるのです(強い不快情動によって、運動調整機能が低下し、思わぬ怪我をすることがある)。

 自覚できない不快情動が累積し、精神面に現れるのが抑うつ症で、身体面に現れるのが心身症です。この状態が、最初に述べた自我と身体の分裂「意識と無意識の不統合」です。

 現代人の理性に偏った意識というあり方が、様々な「心(感情)に起因する病症」が増加している背景にあるのです(このため、現代では心身医学(深層心理学と生理学の結合)の発達が必要となり、心療内科が普及した)。

 個人指導の場での整体操法は、身体的なはたらきかけによって心理的な変化を誘導するもの(=求心的心理療法)ですが、私の心療整体では、言葉によるはたらきかけ(カウンセリング)を通じて、「本人の感情への気付きが身心の変化をもたらす」ための対話を合わせ行っています(こうした自律的な働きが大切)。

 『病むことは力』出版は、職業的立場における私としての「自我の確立」になりました。こうして、現代社会に野口整体(野口法)の一継承者としての立処を明確にすることができたという思いです。

 私が捉えた「生き方」としての野口整体に、本書を通じて触れて頂きたいと願っています。

2017年 寒露

 

一般社団法人

野口整体 気・自然健康保持会

代表理事 金井蒼天