野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

金井先生の「野生の思考」3

近代科学とは何かを学ぶ

こうして、金井先生が現代文明(天風師の言う物質文明)の基礎となっている「近代科学」について学び始め、その先達となったのが戦前生まれの井深大、湯浅泰雄、石川光男、河合隼雄立川昭二氏ら五氏の著書でした。

 そして、鈴木大拙中村雄二郎村上陽一郎、池見酉次郎氏らにもつながっていったのです。

 この五氏について、金井先生は『「気」の身心一元論 ─心と体は一つ』で次のように述べています。

・・・五氏は平均すると、私(一九四八年生)より、二十四歳年長の方々で、このような時代の諸氏だからこそ持ち得た思想であり、かつ、私が一九六七年からこの世界に身を置いたことで、五氏の思想を受け継ぎ活用することができるものと確信しています。

 先生が学んだ諸氏は、戦後の知識人、文化人の多くが乗った社会主義思想(唯物論)には乗らず、資本主義も共産主義も共に基盤としている、近代科学というものに疑問を抱かずにはいられなかった人たちでした。その疑問の中心にあるのは「心」が見失われていくことにあったと思います。そして、天風師の言うことが実感できる、最後の世代であったといってよいでしょう。

 ユング心理療法家の河合隼雄氏は、科学は「自分の心のことをどう考えるか、という場合にそれは答をもっていない」と述べました。

 そこに共鳴した金井先生は、「科学には自分のことを考える智はない」。それはなぜなのか、それが野口整体を学ぶ上で、そして現代人が生きる上で、どのような影響をもたらすのかを説くようになっていったのです。

 金井先生の「野生の思考」1にある内容を読んでみると、ここには「心」と「体」という言葉が何度も出てきます。また冒頭には、

〇身体感覚の向上。(心の高きを、深きを求める)

とあります。

 身体感覚によって、自分の心を捉える。これは潜在意識理解の基本となることで、私が金井先生から学んだ重要なことのひとつです。こうして自分の内を明らかにしていくことを、金井先生は「身体性を高める」と説きました。

 この中での「心」と「体」は身体性というものであって、野口先生が「潜在意識というのは体にくっついている心」というのと同じなのです。