野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

西洋医学と野口整体 ガレノスとヒポクラテス 2

 野口先生は「西洋医学は死体解剖学を基礎としている」と、折に触れ説いていますが、金井先生はそれを「体表中心医学」と「内臓中心医学」という対比でも論じていました。

※体表・・・体壁系とも言う。皮膚、骨格筋など体の外側から身体全体のはたらきや内部の状態を触覚的に捉える医学の意。解剖学を基礎とした医学は脳、内臓などを中心として視覚的に身体を捉える。

「気」「内なる自然」の存在を前提とし、それを整えることを中心とした医療は、死んだ体には存在しないもの(丹田もその一つ)を対象としているのです。「生きている体を観て、触れて捉える智」と、「死体を解剖して得た知」の違いは、そのまま野口整体と西洋医学の違いとも言えることです。

 これは本当に、身心観、自然観ともつながる思想的相違という大きなテーマですが、私がこうしたことを学んだのは、金井先生とともに「野口整体と西洋医学の相違」について学び、三冊目の原稿執筆のお手伝いをしている時でした。

昭和19年野口晴哉先生はガレノスとヒポクラテスについて次のように述べています(文中のガレーンはガレノスのこと)。 

ヒポクラテスは近代医術の宗祖である。彼の説いた原則の要約は次の如くだ。

一、事実以外に権威はない

二、事実は正確な観察によって得らる

三、推論は事実からのみ為し得る

・・・今日の医学から除きたいのはガレーン的傾向で、ヒポクラテスではない。近代医学に敬意を抱き乍ら之にに不満があるのは、ヒポクラテスとガレーンが同居してゐるからである。否、ガレーンが医学の中には多いからである。ハーヴェーすら、ガレーンを医学から追出し得なかつた(※)。自分の嫌いなガレーンは今なほ生きている、だから生命より薬が尊ばれ、自然より医術が重んぜられている。

野口晴哉野口晴哉著作全集第一巻』全生社)

(※)に、ガレノス医学に反論して血液循環説を立証したハーヴェー(英・医師。ハーヴィ)についての記述があります。これはハーヴィが正統医学となった後のガレノス医学の教条主義権威主義)を、観察と科学的手法によって論破したが、その他の要素はまだ残っている・・・という意であろうと思います。