野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

養生としての野口整体―立川昭二氏に『江戸時代の気の医学』を学ぶ1

隠れたものを見る

  野口整体と日本の伝統文化、特に体の使い方におけるつながりの深さは、広く知られるようになってきました。金井先生はからだ言葉を通じて、日本人の気の捉え方と、野口整体の「心と体をつなぐもの」としての気の感覚が共通しているというところに関心を持っていました。

2011年、お会いすることのできた立川昭二氏(医療史家)は、整体についての理解も深く、『「気」の身心一元論』では読売新聞に掲載され、後に月刊全生(1980年10月号)にも掲載された『風邪の効用』書評が引用されています。長いですが、全文を紹介します。 

病気もからだの自然な経過

 私の山の家のある八ヶ岳南麓のやせた土地の近くにも、農薬を使用しないで高原野菜をつくっている実験農場がある。現代は、五千年来の自然農法が実験と呼ばれる奇妙な時代である。

 人間の世の中も同じこと。医療が高度に技術化・機械化するなかで、自然出産とか自宅分娩が話題となり、催眠療法東洋医学にうちこむ医師たちがあらわれ、いっぽう管理社会で肉体が侵されつつあることへの恐怖からか、ヨガや太極拳、自然食品や自己訓練法など、自然回帰的な健康づくりが大衆レベルでブームとなっている。

そんな混迷のさなか、野口晴哉「風邪の効用」(全生社)という本をフトした機縁で手にし、健康とか病気にたいする通念を根底から覆す驚きにうたれた。

 ここには、現代医療文明にみられる病気を敵対視する思想はない。病気を根絶するというより、人間の内なる自然のはたらきを活かすという考えである。たとえば、風邪を上手に経過すると、ほかの病気も治り、からだは強くなるという。病気は闘って征服するものではなく、からだの偏りをなおすきっかけと考え、ひとりひとりのからだと、こころの動きを自発的に方向づけていく。そこではしたがって、気とか潜在意識、あるいは各人の体癖というかくれたものを見ようとする。

 故野口晴哉氏は、知識人をはじめ多くの支持者を得ている整体法の創始者である。病気はからだの自然の経過であるという考えは、医学の父ヒポクラテスと同じだ。風邪をめぐるこのささやかな本は、人生観さえ変えさせる。

 自然の土と水と太陽だけで育った野菜がからだに入ると、ある身震いを覚える。それと似て、自然に即して無数の人を救済した体験に根ざす生命学をといた「体運動の構造」「病人と看病人」(全生社)を読むと、本とはいえ、体の芯まで震盪(しんとう)させられる。

 

 

 金井先生がこの中でことに共感したのは「気とか潜在意識、あるいは各人の体癖というかくれたものを見ようとする。」というところでした。

 『「気」の身心一元論』で先生は、

「気で観る」という観察眼によって、この「隠れたもの」を見ることができるのです。

・・・私は日々、人の「心の動き」、それは感情を観ており、これが「隠れたもの」に当たるのです。 

と述べています。次回から、この立川昭二氏の説く日本人の「気」の感覚と江戸時代の気の医学、そして野口整体についての内容を紹介したいと思います。