野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

ユング心理学とは―ユング心理学と野口整体金井流1

ユング心理学とは

 ユング心理学は、スイスの精神医学者C・G・ユングの創始した心理学で、正式には「分析心理学」と言います(古くはコンプレックス心理学と言われた)。日本では故・河合隼雄氏(ユング心理療法家)の著書によって一般に知られるようになりました。

 野口晴哉先生が、深層心理学の祖フロイト精神分析学を学んだことは、整体に詳しい人には良く知られています。

(註)フロイトが研究したのは、意識が抑圧した感情や欲求が心身を支配し、痛みや麻痺などの身体症状として表れるヒステリー(今は解離性障害・身体表現性障害などと言う)という病気。抑圧感情が強い不安と身体症状として現れる病症の総称が神経症

 第一次大戦前頃、ユングフロイトとともに深層心理学(無意識の心理学)を研究し、フロイトに息子のように信頼されていましたが、その後決別しました。

その大きな原因は無意識の観方にあり、フロイトは無意識を「過去に意識が排除した心の倉庫」で病気の原因はそこにあると捉えていました。

 しかしユングはそれに留まらず、病症をその人の人生における「再適応の過程」として捉えました。そして無意識は生命の源であり、そこに信を置く心理療法を創始したのです。

 前回、仏教での潜在意識と感情の捉え方について少し述べましたが、ユングフロイトと別れてから東洋の宗教と哲学(仏教、インド哲学易経など)に傾倒し、「東洋の哲学者は深層心理学者ではないかと思う」(『黄金の華の秘密』)とまで述べています。

 このように、東洋宗教に影響を受けた深層心理学が、ユングの分析心理学であると言うことができるかと思います。

金井流個人指導とユング心理学の三つの共通点

 まず一つ目は「自分のことからはじまる」ユング心理学という点です。ユング派分析家となるためには「教育分析(無意識とそのはたらきを、自分を研究材料として理解する)」を必須としました。

 こうしたことを河合隼雄氏は「自分のことから始まるユング心理学」と言い、自分とは関係なく研究し応用できる科学的手法と心理療法の違いを説きました。

 金井先生は自身の個人指導を通じ、河合氏の考えに大いに共鳴し、塾生に野口整体の潜在意識教育を学ぶとはどういうことかを説くために用いたのです。

 そして二つ目は金「自我から自己への中心の移動」というユングの説く心の発達過程でした。これは重心が頭から本来の中心(丹田)に下がると、自我という「頭」にある心がすべてではなく、無意識を含めた全体を心として感ずるようになる・・・という整体操法の原理とも共通するものです。

 三つめはユング心理学の基礎となった「コンプレックス」です。一般に「劣等感」と理解されていますがそれは狭い意味で、ユングは「身心の主体性を奪う感情の滞り」をコンプレックスといい、自我と無意識の間にあるものとして焦点を当てたのです。

 金井先生はこのコンプレックスと自身の偏り疲労の観察における潜在意識理解にも共通点を見出していました。

 これから、この「ユング心理学野口整体(金井流個人指導)」について述べていきたいと思います。