野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

情動と脳・情動と身体ー心身医学と金井流個人指導3

 前回、私は事態が思わしくないと、不安または恐怖にかられて「どうしたらいいのか」と思い詰めてしまう癖があり、金井先生が「まず考えるのをやめて体を弛め、姿勢を整えて心を落ち着けること」を教えてくれたことについて書きました。

 金井先生は野口晴哉先生亡き後、中村天風師にも「心(潜在意識)と「生き方」について学んだのですが、その後、私も天風哲学を学ぶようになりました。

 そして、天風哲学についての会報を作る準備として、天風哲学の本を読んでいる時、このような文章を見つけました(中村天風『心に成功の炎を』)。

【訓言三】

…あなた方はたいてい、何とかして自分の現在の失望、落胆したことを取り戻そうと、その出来事なり事情を解決するほうへ手段をめぐらすことが先決問題だと思うだろう。それが間違いなんだよ。

 一番必要なことは、もしもこの出来事に対して意気を消沈し、意気地をなくしてしまえば、自分の人生は、ちょうど流れの中に漂う藁くずのような人生となって、人間の生命の内部光明が消えてしまうということをしんから思わなきゃいけないんだ。

 失望や落胆をしている気持ちのほうを顧みようとはしないで、失望、落胆をさせられた出来事や事情を解決しようとするほうを先にするから、いつでも物になりゃしない。

 つまり順序の誤りがあるからだめなんだ。

…天風哲学は厳かにこう教える。およそ人生の一切(いっさい)の事件は、ほとんどそのすべてが自己の心の力で解決される。心の力こそは生命の内部光明である。この光明こそは、いかなる場合があっても、…我が命の中に輝かしていかなきゃならないのが、人間として自己に対する責任であるということを忘れちゃいけない。

 私は金井先生にこの文章を見せ、先生の教えてくださったことが「東洋の智慧」そのものと分かった、とお話しました。

 先生はこの一文を基にそう教えたわけではなく、経験知として教えて下さったのですが、現代人の多くに当てはまることだと考え、これを引用して本の文章を書き、未刊の本の原稿となっています。

情動と脳・・・生理学的なお話

 情動は、生理学では「個体および種族維持のための生得的な要求が脅かされる、あるいは充たされた時の「感情体験」およびそれに伴う行動などの「身体反応」」と定義されていますが、身体反応が鎮まれば消えると考えられています。

 そして、人間がさまざまな情報や記憶を総合して、物事を考え対処する機能、また感情的な行動を抑制する機能、そして未来を想像する機能を司るのは脳の前頭葉であり、情動の影響を受けて意思決定をすると言われます。

 また、前頭葉に障害を起こすのも情動が関わっているとされ、精神的柔軟性や自発性の低下(しかしIQ の低下は起きない)などの現象が起きるのです。このように、「考える」はたらきよりも強いのが情動というものです。

 そして嫌悪や恐怖などの不快情動とつながる記憶は、刺激に対する身体反応の型として定着しやすいと言われます。

 ただ生理学では、情動の発生とは大脳皮質の内側にある脳の古い層で起きるとされており、情動の抑制も頭の中だけで行うとしています。

 野口整体では体に情動による偏り(硬張り)が残れば、情動も鎮まらないし神経を通じた刺激となって、脳が休まらないという観方です。感情の制御をする能力も全身的に(腰・腰椎・お腹を中心として)観ています。

 このように心のはたらきを頭の中だけで説明し、研究しようとしている点が「近代科学」であり、人間まるごとを観る野口整体とは大きく違うところですが、参考になる部分を取り上げまとめてみました。

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前頭葉(ぜんとうよう) 水色の部分

(註)情動 一次性情動と二次性情動とがある。

一次性情動・・・個体の生存および種族維持の不可欠な身体的要求を知らせる感情。渇き、空腹、空気飢餓、求温、求冷、睡眠、休息、要求、性欲などの欲。

二次性情動・・・一次性情動から派生する感情。要求が充たされない(あるいは脅かされる)状況で発生するのが、不快、怒り、恐れ、不安など。充たされた(充たされそうな)ときに生じるのが、快感、喜び、安心感、エクスタシーなど。

 感覚を通じて脳に入る情報は、情動を通じて個体にとっての意味づけがなされ、自律神経系の反応と行動への動機付けとなる。