野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

対立と支配を超える―ヨーロッパにSeitaiを伝えた津田逸夫氏 1

津田逸夫氏と金井先生

『「気」の身心一元論』第三章 活元運動には、1979年の月刊全生に掲載された津田逸夫氏の「ヨーロッパ事情」という文章が論じられています。

 津田氏は合気道の植芝守平氏の高弟でもあった方で、1960年代後半、野口晴哉先生は津田氏にヨーロッパで活元運動を広める仕事を託したのです。

 野口先生がなぜそれを考えたのかについて、金井先生は鈴木大拙氏がなされたように、「心身二元論的になっている西欧人に対して、活元運動と野口整体の思想を広めることを考えられた」と述べています。

 鈴木大拙氏は戦前のアメリカでの生活と第二次世界大戦を通じて、「禅の精神、あるいは東洋思想を西洋に伝えなければならない。・・・そうしないと地上にいつまでも戦争はなくならない」と考え、西洋に禅と東洋の心を伝えた人です。

(私は、戦時中、鈴木大拙氏の著書を読んでいたという野口先生の文章を月刊全生で読んだことがあります。)

 1960年代後半は、ヨーロッパに禅を広めた弟子丸泰仙師(曹洞宗)がフランスに渡った時期(1967年)とも重なり、弟子丸氏の旅費を工面したのは整体協会の会員の方(名前不明)だった、と金井先生から聞きました。

また金井先生は入門間もない頃、講習会で一緒になった津田氏の奥様に「手」を褒められたこと、1999年には津田氏の下で野口整体を学んだジャン・ベナヨン氏が来日、熱海で三週間に亘り金井先生から野口整体を学ぶという出来事があったと『「気」の身心一元論』で述べています(その後、ベナヨン氏の生徒だったパリ大学の教授夫婦が、個人 指導を受けに来たこともあった)。

 津田氏の文章についての内容は、未刊の原稿ではさらに加筆が進んで大きくなっていますが、今回は『「気」の身心一元論』の内容を中心に、この「ヨーロッパ事情」について書いていこうと思います。

 津田氏は、近代科学文明生んだヨーロッパの文化的土壌について、次のように述べています。 

ヨーロッパ事情

 日本人にとってヨーロッパとは何かといえば、それは現代文明の源泉地であるということ、明治維新から百年間、日本がたどって来た驚くべき変遷はヨーロッパの影響なくしては考えられないということ、こういう点から、地球上で特殊な重要性をもった地域と思われています。この重要性は主として文化的なもの、思想的なものであって、ここにヨーロッパの特殊性があるといえましょう。

  日本で我々がその恩恵を被っている種々の文明の制度及び利器は、もちろん日本人の独創性と勤労精神によるものですが、その源へさかのぼって行けば、理論があり、更にさかのぼれば、ある原則に行きあたり、更につきつめれば、或る種のものの考え方にまで到達します。

 このものの考え方は、一口にいえば、我と物との対立にあるといえましょう。ルネサンス以後、古代ギリシャの再発見により、人間は次第に自分の意志というものを確立するようになりました。すべては神の意志であるという宗教の絶対的権威から、科学は次第に離脱して、独自の道を歩くようになりました。こうして、人間は自然を支配するものであるという考えが強く打ち出されたようです。

 この短い文章の中に、ヨーロッパの文化的特徴が端的に述べられています。この西洋の歴史と文化をルーツとして近代科学、近代的な制度は生れて来たのですが、近代化とともに、それが世界のスタンダードになったのです。

 引用文中に「人間は自然を支配するものであるという考え」というところがあります。これは「神が自然を支配する」→「神が人間に自然を支配するために理性を与えた」という宗教的・思想的流れから来た考えで、これが近代科学の大本にあるのです。

次回に続きます。