野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

正体・正心・正気―野口整体の身心一元性 1

現代の社会通念・常識とは何か

 先日、本を読んでいる時に、アインシュタインは「自分の目で見て、自分の心で感じている人は少ない」と言った、という一文に目がとまりました。

 確かにそうかもしれない、と思います。間違えたり失敗したりするのを恐れているのか、自分の目、自分の心が移ろいやすく信じられないのか。

 理由は様々でしょうが、こうしたことから、客観的、常識的に「良い」とされていること、普遍妥当と思われることを自分の思っていること、求めるものだと思い、それに倣って行動するようになっていくのでしょう。

 金井先生は未刊の原稿で、故・野口裕介氏が父上である野口先生から聞いたこととして、次のお話を紹介しています(『月刊全生』一九九九年)。

…晩年よくこういう話をしてくれたことがあります。「自分が若い頃からやってきた中で一番の敵は何だったかと言うと、常識だ。常識ほど強いものはなく、その時代の常識と闘うということが一番大変なことだった」と。

…熱のこと、病気のことなど、皆それぞれ理解してもらうまでに時間がかかりました。熱というものの意味をいかに説いても、なかなか理解してもらえなかったと話しておられました。

 その後、野口先生の話として次の内容を引用しています(月刊全生)。 

一九七二年 正月潜在意識教育法講座

 私が五十年間やってきたことは、社会通念ということに対する戦いでした。ちょっと前までは、薬を飲み過ぎるなと言っただけで非難轟々と受ける。薬を飲んだら体が弱くなるのではないかと言うと、もっとみんな腹を立てる。病気でも手を当てて愉気すれば良くなるというと、変わった思想のように思われて非難される。子供の自由を大事にしなくてはいけないと説けば、子供は鍛えなければいけないと反発される。という具合でした。

 それが三十年経つと、私の説いてきたことが常識になってくる。…どんなに常識が変わっていこうとも、人間の心の働きというものは変わらないのです。ですから私はその人間の心を見定めるということに力を注いできたのです。そして私は心を見定めるために、体の動きを丁寧に観察してきたのです。

  金井先生は、野口先生のこうした精神が自身の潜在意識の中に刷り込まれており、「現代における「時代の常識」(社会通念)の根拠とは「科学的根拠」というものなのです。」と述べています。

 科学的根拠というのは、その時それが一番正しいとされていることでも、新説が登場すれば簡単に(かつ無責任に)変化していくものです。

 しかし敗戦で自信を無くし、劣等感に陥っていた日本人は、戦前以上に近代科学を錦の御旗のように思い、アメリカ・ヨーロッパに追い付こうという時代が長く続いたのです(一方、アメリカやヨーロッパでは東洋の智慧を求めるようになった)。

 しかし、今はそれも確かなものではないことが見えてきて、一層不安定さと寄る辺なさが増し、「自分の目で見て、自分の心で感じる」度合いは減っているように思います。

 そして金井先生は、自著について「科学的な知に対して、野口整体がどのような智であるかを、五氏の思想を通じて、考え著した」と述べています。

 五氏というのは、井深大・湯浅泰雄・石川光男・河合隼雄立川昭二氏のことですが、平均すると先生より24歳ほど年長で、私と金井先生も25歳の差があります。昔なら親子という世代間でしょうか(野口先生は一九一一年九月七日生で、一九四八年生の金井先生とは37歳違う)。

 また、金井先生は「私が一九六七年からこの世界に身を置いたことで、五氏の思想を受け継ぎ活用することができるものと確信しています」と述べています。

 金井先生が「団塊の世代」に当たることを思うと、同世代の人達とは相当に違う道を歩んだことは間違いなく、先生の中にある「日本の伝統文化」と「東洋」は、野口整体を通じて学んだことなのです。

 今回はこの東洋の身心一元性の基盤にある「正体・正心・正気」について書く予定でしたが、想像以上に長くなってしまいましたので、次回に続きます・・・。