野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

第一章 野口整体の身心の観方と「からだ言葉」一3②

野口整体の真骨頂 身体に観察できる「情動の持続」

②身体に観察する「情動の持続」

 情動(emotion)は「快情動」と「不快情動」に大別されますが、個人指導では、健全性を損なう隠れた原因という点で、「不快情動」が対象となります。

 情動は、動物(犬や猫など)にもあるもので、とりわけ、人間に近い動物(チンパンジーやゴリラ)には、情動のみならず高い知性(学習能力)と共感性が観察されてきました。

 情動は神経的(化学的)な反応で、無意識の状態で急速にひき起こされます(感情(feelings)とは、情動による身体的変化を感じ、意識し、言語的に捉えたもので、幼少期にこのような内面的な生活が不足した人は、感情が発達していない(感情は意識することで「分化」し発達する))。

 不快情動とは、怒りや恐怖などの感情に応じて起こる身体的変化で、顔色が変わる(青や赤、白、黒くなる)・胸がどきどきする・呼吸が速くなる・鳥肌が立つ・手に汗を握る・涙が流れる・肩が凝るなど、陰性感情のはたらきが自律神経系を通じ、全身的に表れるものです(この時、外部から観察可能)。

 生理学的には、情動は、感覚器官(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)から入力された情報に対し、「脳が身体に変化を生ずる情報を出力し、身体的変化が生じる」と説明され、一時的・急激な(先に挙げたような)身体的変化を指すものです。

 しかし、一時的とされるこの身体的変化は、後日の整体指導の場で、体中の皮膚・筋肉・骨などに持続していることが観察されるのです(数カ月、時に数年以上のこともある)。

 このような緊張が持続しているということは、意識下でその時の神経的興奮が続いていることで、これが潜在意識(補足参照)のはたらきです。このような時、眠りが浅いだけでなく現在意識のはたらきにも影響を与えます(例・強い不安を体験した後、少しのことに不安になる=コンプレックス)。

 この、普通は意識していない(自覚できない)緊張が弛むことで、初めて(現在)意識が影響を受けていたことが理解できるというものです。

 このような観察は全くの「臨床の知(註)」であり、科学的には立証できないものです。

 快情動・不快情動、ともに身体に持続しますが、快情動による問題はさしてなく、不快情動の持続が「整体を保つ」上での問題です(強い不快情動は活元運動の発動も妨げる。一般的な手技療法では「背中が張る」「肩が凝る」など、身体面のみを対象としている)。

(註)臨床の知 哲学者の中村雄二郎が提唱した知のあり方。

 従来の「科学の知」は、客観性・論理性・普遍性を重視するあまりに対象から距離を置き、表面的な分析に留まる危険がある。一方「臨床の知」とは、対象との相互作用の中で、主観的・共感的に対象を理解しようとする知のあり方である。

 以下は中村著『臨床の知とは何か』より。

 臨床の知は、個々の場合や場所を重視して深層の現実に関わり、世界や他者がわれわれに示す隠された意味を相互行為のうちに読みとり、捉える働きをする、と。

…科学の知が冷ややかなまなざしの知、視覚独走の知であるのに対して、臨床の知は、諸感覚の協働にもとづく共通感覚的な知であることになる。というのも、臨床の知においては、視覚が働くときでも、単独にでなく他の諸感覚とくに触覚を含む体性感覚と結びついて働くので、その働きは共通感覚的であることになるのである。

…臨床の知は、…直感と経験と類推の積み重ねから成り立っているので、そこにおいてはとくに、経験が大きな働きをし、また大きな意味をもっている。