野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

第一章 野口整体の身心の観方と「からだ言葉」三5

向かっ腹が立つ・頭痛の種 

 若い女性の個人指導例です。この二十歳ぐらいの女性は、頭痛と吐き気がひどく、病院でレントゲンやMRIで調べたそうですが、医学的には原因がはっきりしないようです。

〔身体〕を観察した上で、「何か嫌なことがなかった?」、「お母さんにも言いにくいことない?」と聞いていくと、なかなか出てこなかったのですが、ようやくこんな話をし始めました。

 彼女のボーイフレンドがこのひと月ほど様子が変である。彼女のところに遊びに来ても、しばらくするとどこかへ行って、四〜五時間ほどして戻ってくる…。女の勘で、どこか他の女のところに行っている気がする。そんなことが四日間も続いた…と。

 私は、そんな彼に対する怒りが過飽和になり、生理的にキレた状態が吐き気と頭痛に至ったと観ました。

 それは、お腹を観ると、「向かっ腹が立っ」ている(腹が立って曲がっている)状態で、このことではっきりと確認できたからです。私は「○○〜(彼の名前)私のこと何と思ってやがるんだ!」と、彼女の潜在意識に共感して言葉を使い、その日の指導を終えました。

  日本語には「頭痛の種」という言葉があります。頭痛や吐き気にはそれなりの理由(心の問題)があるということです。

 しかし最近では、心が忘れられ、もっぱらその症状に目を奪われて薬を飲んだり、病院に駆け込んだりして問題を複雑にしているのです。

 西洋医療が必要でないとは考えていませんが、そのような検査が必要でない段階で、自分にきちんと向き合う方法があったはずなのに、現代ではなくなっているのです。

「頭痛の種」という言葉のように、種がある限り、種について考える方が本当の取り組み方だろうと思うのです。

 ただ薬で症状を緩和するというような「心身二元(心身分離)」的な方法ではない、「身心一元(身心一如)」的な取り組み方というものが日本の伝統智の中にあったことを、この言葉は教えています。

 一例ですが、これが西洋医学野口整体というものの違いである、と捉えてきたのが、師野口晴哉の思想と行法に対する私の理解です。