野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

第五章 野口整体と心身医学の共通点 一 1

一 「心身分離」的見方から「心身相関」的観方へ

― 二元論から一元論の医学へ 

 今回から始まる第五章は、本では「近代科学的西洋医学深層心理学の出会い・「心身医学」」という章名ですが、ブログではテーマをハッキリさせるため、変更しました。

 新型コロナウイルス感染症(Covid-19)では、重症化ハイリスク群として肥満、高血圧・心臓病などの生活習慣病、がんなど免疫系の病気を基礎疾患として持っている人が挙げられました。このような病気とストレスの深い関係は、一般にも知られるようになっており、ストレスという視点から病理と治療を考えるのが心身医学です。

 第五章は、この心身医学と野口整体の身心観、健康観の共通点を主題としています。では内容に入っていきましょう。 

1 西洋医療の科学的診断では「感情」は扱われない―現代人の「客観的身体」 

 近代科学の影響が濃い西洋医学は「心身分離」によって体を捉え、病症(病気の性質・状態)を診るもので、これはデカルト以来の心身二元論に基づくものです。

 明治以来の西洋医療に拠って身体を管理するようになった現代では、多くの人が「血圧がいくつ」であるとか、「γ‐GTP(註)の数値がいくつ」といった具合に、「数値化」することで身体(病症)の状態を捉えようとします。

 科学は定量的で、数値化が原則だからです。

(註)γ‐GTP 肝臓の解毒作用に関係している酵素で、肝臓や胆管の細胞が壊れると血液中に流れ出るため、これらの細胞が壊れたことの指標として利用される。 

 「γ‐GTP」の値が高くなる疾患には、酒類の過飲による肝臓に脂肪が蓄積するアルコール性脂肪肝や、肝臓の細胞が破壊される肝炎などがあり、アルコールを飲み過ぎる中年男性において、健康診断の時によく問題になる例です。

 このように、つい過飲(や過食、ときに拒食)してしまう大元には、精神的苦悩や心理的ストレス、つまり「抑圧感情」があります。これは、ほぼ常識となっていることですが、この「感情」に触れることは一般的な医療においてはありません。

 冒頭に述べたように、西洋医学は「心身分離」によって成り立っており、そして、心は「定性的(性質に着目すること)」に捉えるものであって、数値化はできないものです。しかし、現代のように数値化が進むと、このような「数値に表せないものは無い」ことになってしまうのです。

 そしてCT、MRI、エコーと画像診断が進み、このような形の「視覚による認識」が大いに発達しました。数値化や視覚の特化は科学の特徴なのです(客観的であることの表れ)。

 私は、上巻で次のように述べました(『野口整体と科学 活元運動』)。 

1 患者は壊れた機械、医者は治す機械

 西洋医学が科学的に発達するに伴い、体を分析する(臓器、組織、細胞などを調べる)ことで病気の原因を特定し、処方が決まると診察は完結する(病理診断)、という方法論で医療が行われるようになりました(病理学(病気の原因や発生の仕組みの解明、その診断を確定する医学の一分野)的診断による処方)。

 人体の構成要素に重点を置いた西洋医学においては、「病症という身体現象」を、本来的対象である「生活している人間」から切り離し、客観的に研究してきた(生活上のことと病症を無関係と見做す)のです。

 従って、この時、生活上での心身の用い方=心と体がどのように使われたか、は原因として考えに入っていないのです(科学的とは個々の主観的問題の排除)。

 こうして、現代では、体の「症状」とそれまでの「心や生き方」はつながらないものになっています。

  このような西洋医学においては、患者の病症は客観的に捉えられ(=病症は物体の変化として扱われ)、「主観(感覚と感情)」を対象とすることはありません。

 こうして養われてきたのが、現代人の多くが所有する「客観的身体(主観と切り離された身体)」です。