第三章 自分を知ることから始まるユング心理学と野口整体 一4
深層心理学で「人間を理解する」とは― 客観的に、また一体となって相手を理解する
河合隼雄氏は深層心理学を学ぶ態度について、次のように述べています(『対話する生と死』臨床心理士養成のための基本的課題)。
一 臨床心理士の特性
…次に、臨床心理学において深層心理学を学ぶことになるが、これはみずからの経験を通じて学ぶものであることを忘れてはならない。自分が自分を対象としつつ探索してゆくのである。「無意識」とか「投影」とかいっても、それはまず自分のこととして、なるほどと感じるものではなくてはならない(自身を客観的・主観的に理解する)。
実際に、クライアントにお会いするときは、まずなんといっても、その人の悩みや苦しみを共感しつつ接することが大切である。相手の気持ちを感じとりながらともに歩んでゆこうとする態度をもっているからこそ、クライアントも自分のこころを開放し、あらたな可能性を発見してゆけるのである。したがって、このような共感する能力を身につけることが重要である。
共感するといっても、溺れこんでしまうことではない。下手をするとクライアントとともに深みにはまりこんで身動きできないような状態になる。センチメンタルな同情は役に立たない。このことを避けるためには、臨床心理士は客観的に自分もクライアントも含めて観察する能力がなくてはならない。先に述べたことと一見矛盾するような、これら二つの態度を同時に身につけねばならないところに、臨床心理士のむずかしさがある。
…臨床心理士は「人間」を相手にするのだから、人間に対する理解を深めるためには、相当に広い背景をもたねばならない。
…とくにあげておきたいものとしては、文化人類学がある。これは、最近の文化人類学者が、ある民族を客観的研究対象としてみるのみならず、自分がそのなかにはいりこみ、その民族と生活をともにしながら、体験を通して理解しようとしており、その点で臨床心理士の方法論と一致するところがあるからである。そのうえ、そこからもたらされる知見は、人間を深く理解するうえにおいて役立つことが多く、この点はとくに強調しておきたい。
( )は金井による。
右の内容は、野口整体の「個人指導」での臨床心理においても同様であると思います。
そして、相手の悩みや苦しみに「共感する能力」を身につけるためには、自分の「心を耕す」必要があります。心を耕すというのは、宗教一般において言われることですが、野口整体でのこれは、特に「体を開拓する」ことにその特質があります。