野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

第五章 野口整体と心身医学の共通点 一 5

 条件反射理論という超唯物論的な研究が今回の内容です。

 第四章で紹介したユングが、研究者としての地位を確立したのは、条件反射理論を応用して、無意識とコンプレックスの存在を立証する検査法(言語連想実験)の開発でした。

 これは、「お金」「母」などの単語に対して、連想することを答えてもらう検査で、隠れたコンプレックスがあると、それを連想させる言葉によって起こる連想と情動反応に特有の変化が生じるというものです。

 つまり、コンプレックスがあるということは、反応の仕方がノーマルではなくなるということですが、そこには意図せず条件反射的な反応が起こっているのです。

野口整体では、不自然で生きる上での-要因となる条件反射が起きていることを「感受性の歪み」と言い、感受性の歪みには過敏(過剰反応)、鈍り(無反応・無抵抗)という二つの大きな傾向があります。 

深層心理学を科学的に裏付けるきっかけとなった条件反射理論― パブロフの犬

  1902年生理学者のパブロフは、犬に餌を与える時、同時に(直前から)ベルの音を聞かせる、という実験をしました。これを繰り返すと、ベルの音(感覚刺激)を聞いただけでも、犬が唾液を出すようになることを発見したのです。これが条件反射です。

 条件反射とは、内外の刺激に対して神経系を通して起こる生活体の反応で、反射を誘発する刺激(=無条件刺激・餌)と同時に、それとは無関係な別の刺激(=条件刺激・ベルの音)をくり返し与えると、その無関係な刺激だけでも反射が誘発(ベルの音によって唾液が分泌)されるようになることです。

 唾液の分泌は、ふつう食物が口に入ることが刺激になって反射的に、意志から独立に起こる自律的作用(=無条件反射)で、これは延髄に中枢のある副交感神経の作用によるものです。

 しかし、「ベルの音を聞く」という大脳皮質への感覚刺激と、自律神経の活動である「唾液の分泌」は、生理的機能の上で直接の関係はありません。

 食物の刺激によって初めて起こるはずの反射作用(唾液の分泌)が、ベルの音を聞いただけで起こるようになる、これが習慣づけによる条件反射です。ベルの音という皮質への感覚刺激と自律神経の活動を結び付けたのは、犬の食欲という本能に根を持つ情動のはたらき(快情動)によるものです。

 このように一定の訓練や経験(習慣づけ)によって後天的につくられた反射を条件反射と言います(無条件刺激によるものは無条件反射と言い、習慣づけによって条件反射が形成されるのは無条件反射が基本にある)。

 私たち(日本人)は、梅干という言葉を聞いたりするだけで「唾がわく」という条件反射を起こしてしまいます(アメリカ人ならレモン)が、言葉(音)とか文字だけで条件反射を起こしてしまうのは、大脳皮質がもっとも発達している人間の高等な精神活動によるものです(言葉を理解する動物・犬にも見られる)。

 その後、パブロフの弟子ブイコフらによって、内臓諸器官の作用についても条件反射が形成されることが実証されたのです。ブイコフは、唾液分泌だけでなく、自律神経が支配する内臓の働き(胃や腸の運動、消化液の分泌や尿の排泄、心臓の拍動、血管の拡張・収縮など)にも条件反射が起こることを証明しました。

 例えば、犬にアドレナリンを注射すると、心臓の拍動が速くなり血管が収縮しますが、この注射をくり返していますと、注射器を見ただけでも、脈拍が速くなることが明らかになりました。

 これによって、大脳皮質と内臓との結びつきが明らかにされ、内臓も、大脳皮質を通じてその影響を大いに受けていることが立証されたのです。

 それは心臓・呼吸器・消化器についても、さらに、一見心(脳)のはたらきとは関係がないと思われていた腎臓・肝臓・膵臓などについても条件反射が形成されることが確かめられたのです。

 こうしてブイコフらは、大脳皮質の影響が内臓におよぶことを明らかにし、皮質内臓生理学をうち立てました。

 この理論には、皮質系機能と自律系機能(=大脳皮質系と皮質下中枢系)の相関関係を研究する道が開かれたという大きな意義があります。