野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

第六章 生き方を啓く整体指導― 感情の発達と人間的成長 二 1

二 個人指導での自然流「臨床心理」 

 二は、金井先生の個人指導例です。この中に登場するSさんが金井先生の個人指導を受け始めたのは膵臓の疾患がきっかけでした。私はSさんから子どもの時からあまり丈夫ではなく、普通より多くの薬を服用してきたという話を聞いたことがあります。

 野口整体の潜在意識教育は、健康に生きることと潜在意識の問題が直結していることがベースになっており、金井先生が生育歴や親の影響に焦点を当てるのは、親を責めるためではなく、自分の問題を理解し、これからを健康に生きていくためです。それを指導例を通じて理解していただきたいと思います。 

自分の問題点を明確にする―Sさんの指導例

  長く個人指導に通う人で、ようやく自身の主要な問題点がはっきりした女性(Sさん 30代前半、公立校教師)がいます。

 ある指導時のことです。指導の本番に先立ち、立姿で全体像を観察し、私が「何と闘っているのか?」と声をかけたところ、この人は指導の数日前、帰宅するため職場の駐車場から自分の車を出そうとした時、後ろにある車にぶつけてしまったそうです。

 この日(車をぶつけた日)の朝出がけに、前夜からこの人が落ち込んでいる様子を見ていた夫に、「事故に気を付けて」と声をかけられたそうですが、「やってしまった!」と大変後悔している様子でした。

 私はさらに、この人の後ろ姿に「見ないようにしよう」という心を観たのです。

 こうして本番に入ったのですが、指導を進める上で、先ず問題として取り上げるのは、「なぜ前夜落ち込んでいたのか」です。

 この時、この人は心当たりとして、その日夕方に会っていた女友達を見送った後からだと気づきました。この友達は、その前日から、友人の結婚式に出席するため遠方より現地に来ていたそうですが、Sさんは、実は九ヶ月前に行なわれた自分の結婚式に「この友達にぜひ来てほしかった」という念(おも)いがありました。

 しかし、仕事で主要なポストにあるこの友達は、当日どうしても外せなくて出席できなかったのです。Sさんは「ふん、他の人の結婚式なら来るんだ!」という嫉妬を心の中で強く感じていたと思う、と話しました。

 Sさんが「見ないようにしよう」としていたのは、実はこのような「自身の心」だったのです。こうして、友達を駅で見送った後落ち込み、とても暗くなったことに、指導の場で気付くことができました。

 ここから、当人にとっての問題の核心へと気づきが発展したのです。それは何かあると「あっ駄目なんだ!と、大きく落ち込んでしまう(ショックに飲み込まれ、絶望する)」心の癖なのです。この友達が自分の結婚式に出席できなかった時にも、この心がはたらいていました。

 このような、その時本人に十分自覚されない自分の「心の癖」が、これまでSさんの人生には大きく影響していたのです。それで、振り返ってみると、「こういう時、私はいつでもこのような心がはたらくのだ」と気付いたのです。

 瞬時にはたらくあきらめ癖が故、友人が自分の結婚式に参加できなかった時起きた、情動によるエネルギーが「コンプレックス(自我の主体性を奪うはたらき)」となっていたことで、今回の反発感情として蘇り、それが、また「コンプレックス(今回は嫉妬)」となって落ち込んでいたのです。

 この時本人は、「私はあきらめが悪いと思って来ましたが、本当はその前に、自分があきらめてしまうんだ」という、内的な心のはたらき(潜在意識)に気づいたのです。

 このような癖は、幼児期に身についたと考えられるものですが、自分の車を同僚の車にぶつけるという出来事に悩むことを契機として、個人指導(臨床心理の場)を通じて、自身の主要な問題点に気づくことができたのです。