野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

第六章 生き方を啓く整体指導― 感情の発達と人間的成長 二 2①

 本の原稿には、この指導例の後に本人の手記がついており、それが非常にいい内容なので、ここで紹介したいのはやまやまなのですが、ブログとしては原文をそのまま掲載する形は止めて、紹介しようと思います。 

心の闇に光が当たった― 自分では気づけない心の癖(感受性の歪み)を知り「自分のこと」を考える

 ① 愉気によって気付いたコンプレックス  Sさん(女性 三十代) 

 この日、Sさんは目と頭の疲れがひどく、腰の存在が全く感じられないぐらいにふわふわした状態でした。

 しかし、自分がなぜこんなに落ち込んでいるのかが思いつかず、就寝後も何度も起き、よく眠れないまま学校に出勤し、事故が起きたのです。

指導中、先生の愉気を受けているうちに、いつから自分が落ち込んでしまうようになったのかがはっきりしてきました。そして自分の結婚式には出席できなかった友人と会った後からだということ、わだかまりを持っていることを自覚したのです。

 しかしSさんは、「仕事でどうしようもなかった。仕方のないことだ。」と自分に言い聞かせ、「自分の時は来てくれなかったくせに!」という不満と嫉妬をないことにしようとしたのです(理性による感情の「切り離し」)。

 その結果、自分でもよく分からない落ち込みに支配され、「真っ暗闇の中を何の希望も持てずに歩き続けるような感覚」という程になっていました。

 Sさんは、指導の中で、その気づきが起きたときから、「活元運動の動きもはっきり大きく動き出し、気持ちを吹っ切るかのような動きに変わった」と述べています。

 金井先生はSさんに、「諦めてがっくりすると、いつも、がっくりに支配されちゃうんだよね。」と言ったそうです。

 その言葉を聞いて、Sさんは驚きました。自身は、自分は「あきらめが悪い」とずっと思ってきたからです。

(「諦めてがっくりする…」という強い情動(=身体反応)の持続によって「あきらめが悪い」状態となる)。

 そしてSさんは「自分の気持ちが通らないのではないか」と、先回りして不安になり、要求を表現する前にあきらめてきたことに思い当たりました。金井先生には、それは、幼少期からずっとしてきた心の癖であると指摘されたそうです。

 金井先生は、「思い通りにならないこともあるが、感情表現の練習をしていけばいい」と彼女に言いました。そしてSさんは、自分が感じた感情も要求も、感じたことをまず認めること、それが通らなかったとしても「諦めずにいてもいいのだ(否定しなくてもいい)」という理解をすることができたのです。

 金井先生は指導の終わりに「思い通りにならないことはある。しかし、あきらめない!」という言葉をかけ、それがSさんの心に深く残りました。