野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

野口整体と科学 序章 二6

 今回の内容は、序章二の括りとしてちょっと納まりが悪いのですが、そのまま掲載します。見田宗介氏は活元運動をゼミで実践したり、体癖論を基に思想展開したりという実験的な試みで知られる方です。 

6 科学の境界を超えた師野口晴哉― 科学の外部に働く全体的・包括的な合理性

  2004年4月、朝日新聞社会学者・見田宗介氏(東京大学名誉教授)の評論「私の野口晴哉」(①~⑤)が、五週に亘り連載されました。これは、私の野口整体の歴史の中で画期的なことで、こういう時代が、ようやく来たのだと思いました。

私の野口晴哉 ② 椎骨百万

「包括的な合理性」の方へ

 合理性と非合理性、ということを考える時に、仙椎二番の話は面白い。

 人間の脊椎の基底は骨盤と癒着して仙椎となる。この仙椎の二番目の穴を刺激すると、火傷の痕が残らない。関節炎も治る。十二指腸潰瘍もなくなるという。

また妊娠初期の状態が判る。このようなことを、第二次大戦前に野口晴哉が見いだして活用していたら、同じ所(処)で妊娠と火傷と関節炎とどう関係するのか、非合理な新興宗教みたいだと非難された。

 事実の発見から数十年後にアメリカで、妊娠初期に分泌するホルモンを火傷に塗ると治る、関節炎も治癒することが発見された。十二指腸潰瘍はまだ分からないが、妊娠と火傷と関節炎がどう関係するのだろうか。このような推理が成り立つとわたしは思う。

妊娠出産は、平常では考えられない荒々しい力を以て個体の自己完結性を突破する経験であるから、哺乳動物はこれに備えて個体を再編成すべく、よほど強力な表皮、粘膜、関節等の修復力をもつ物質を妊娠当初から合成し分泌する方向に進化してきたはずである。

こう考えるなら、十二指腸の潰瘍の修復も説明の可能性がある。このことは「科学万能」の合理主義への批判であるが、返す刀で、神秘万能の非合理主義への批判でもある。

現在の科学の説明だけが宇宙の真理ではない。けれども科学の外部にも、より全体的、包括的な合理性は働いている。

…三十年間治療に専念する日々に野口晴哉は、百万を超える椎骨に触れてきたという。あらゆる科学と宗教による説明を一旦外してこの百万の身体感応の現象に依拠して立つという、〈間身体の現象学〉(註)ともいうべきものが、野口晴哉の方法である。

「説明は三十年後に誰かがしてくれる」と、野口はいう。目前の、というよりは身間の、事実に常に新鮮に驚きながら、そこからいつも新しく人間世界の理論を立ち上げてゆくという方法である。

 (註)現象学 

 学問・認識の根拠を個々人の主観における妥当(確信)に求めるもの。フッサール(1859年生 ドイツ)に始まる。「物事を観る」ことにおいては、様々な立場があり、立場によって変わること、変わらないことがある、という、その個別性・普遍性を考えるのが現象学

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二つの赤い点のある位置が仙椎二番で、穴が二つある。変動を起こしやすい場所なので、一般の人は押さえるなどの強い刺激を加えてはいけない。