第二部 第四章 三2 個人指導を通じての感情の分化― 潜在意識の意識化とは表現すること・受け取られること
※今回の内容は全文が金井先生による原稿なので、そのまま掲載します。
(金井)
私は1での指導時、「心の空虚感」と表現しましたが、この「虚」とは、彼が「職員たちの冷たい視線を感じた(=集合的無意識から離脱した)」ことで、「心に穴が空いた(個人的無意識の状態)」ことを意味するものです。
彼が裡(身体の中心)で感じていたこの「空虚感」を、私が意図せず共有したことで、自ずと言葉になったのは、自発的な「感情の分化」というものです。
「感情の分化」とは、快・不快の情動が喜怒哀楽の感情へと発達していくことです。乳幼児は、言語化できない感情を他者に受け取ってもらう(身体接触と言葉がけをする)ことで、心が発達していきます。これを「感情の分化」と言い、成人になっても同様の過程を経て、心(感情)が発達していくのです。
そして、情動による身体的変化を感じる能力である身体感覚が鈍く、その感情がどのようなものかを、意識化(言語化)できない状態を「感情の未分化」といいます。
感情の未分化な人は、他人との共感や感情の交流(思いを伝える・自他の違いを理解する)が図り難いことで、人間関係が上手くいかず、ストレスを感じやすくなり、また、それがひきこもりや不登校、時に反社会的な行動につながることがあります。
(「共感や感情の交流」の能力は理性(合理)的な能力とは別物)
「心の空虚感」を自覚するとは、本人にとっては辛い体験ですが、これをきっかけとして「感覚や感情」の言語表現を多様にすることは、豊かな感性を形成して行くことになるのです。
河合隼雄氏は、このような場における「関係性」について次のように述べています(『宗教と科学』Ⅱ いま「心」とは)。
1 深層心理学
…深層心理学が発達してくるにつれて、治療者・患者の人間関係が極めて大切であることが明らかになってきた。つまり、治療者が「開かれた」態度をもっていないと、患者が自分の心の深い部分へと探索を行うことができないのである。
これは患者のなかには、面接の後で、あんなことを話すつもりではなかったのにとか、まるっきり忘れていたことを不思議に思い出してしまったとか言う人があるように、二人の関係のなかで話題が変化し、そこに治療的意味が生じてくるのである。
このことは、自然科学の発展のはじまりとして述べた、自と他を明確に区別して、他を対象化するという態度とまったく異なってくる。ここに深層心理学が科学性という点で重大な問題をかかえこんでくるのである。患者をまるっきり対象化して治療者が臨んだとき、患者としては自分の内面の深いことを話せないのは当然であろう。