そして、2010年7月の整体個人指導では次のような体験があった。
それは、真田さんが勤務する組織で事件が起こった時のことだった。真田さんはその対応で、非常に動揺し混乱していた。
この日の指導の終盤、金井先生は、深い沈黙の内で操法を行った。真田さんは、操法を通じて次第に「腰が据わる(腰がしっかりと定まる)」ようになっていくのを感じ、それとともに心が落ち着き、動揺が消えるという体験をした。そしてその翌日、金井先生に次のようなお礼のメールを送った。
昨日はありがとうございました。
沈黙のうちにご指導いただいた終盤の数分間、私の中に中心が据えられていく感覚を覚えました。その瞬間、周囲に吹き荒れた暴風がやみ、静寂が訪れました。今は組織を守る道こそが大局と悟りました。
本日午後、所轄庁に赴き、事件はすべて解明、解決に至った旨報告し、一切の疑義なく受理され事なきを得ました。これは紛れもなくご指導の賜物であり、厚く御礼を申し上げる次第です。引き続きご指導の程、伏してお願い申し上げます。
真田さんにとって、「腹が据わる」という体験はかけがえのないものだった。真田さんは理性的能力の高い人だが、この体験を経て「理性ばかりを働かせると、状況的な詳細にとらわれ、本質を見失う」と悟った。これは「木を見て森を見ず」という状態で、結果的に判断に迷いが出たり、揺らぐことにもつながる。
しかし、理性(頭)だけでなく、「腰」が同時に働いていると物事を大局的に捉えることができる。腰による判断は明晰で、問題解決力があり、自分のみならず周囲の人間をも納得させる。そして、腰と腹がしっかりと充実することは、心が充実するということでもあると体感できた。
そして、金井先生はその後、
腰が入った身体は「上虚下実」の状態で、「虚」とは鳩尾が柔らかく「実」は丹田に力が入ること。この反対に鳩尾が硬いと頭が良くは働かず、枝葉末節に捉われ本質が捉えられない。
という「身体と頭脳の関係」について教えてくださった。これは金井先生流「肚」の現代的理解だ。
まずは、身体をきちんと整え(調身)、呼吸を深くし(調息)、無心(調心)となった後に考えをまとめる。勝負の時こそ、これが大切なのだと真田さんは悟った。そして「改めて、この道を歩むことで、精進したい」という思いに駆られた。
(金井)
現代では、頭がはたらくことが心のはたらきだと思い、身体を忘れているのです。身体の上の方にある頭ですから、身体が安定した(心の落ち着いた)状態でこそ良くはたらくのです。
敗戦後の理性至上主義教育は、日本の伝統的な「上虚下実」の身体教育(「道」文化)を喪失したのです。
(近藤)12月12日記事はお休みします。